スポーツにおけるAI活用の最前線

近年、どの分野でもAI活用が推し進められています。 スポーツ業界も例外ではなく、多くのチームやリーグがAIの有効活用を図っています。 実際に、AIは選手のパフォーマンス向上からファンエンゲージメント、そしてクラブ経営に至るまで、日本のプロスポーツチームに革命的な変化をもたらしています。 そこで今回は、スポーツにおけるAI活用の具体的な事例を掘り下げ、その成果と仕組みに焦点を当てていきます。

パフォーマンス向上のためのAI活用事例

AI活用が顕著に現れているのが、チームの戦術分析と選手のコンディショニング管理の分野です。
AIは、選手の肉体的・技術的な限界を数値化し、トレーニングと戦術立案の精度を極限まで高めています。

戦術の見える化とリアルタイム分析

JリーグやB.LEAGUEでは、高性能カメラやGPSセンサーを用いたトラッキングデータの収集が標準化されています。
これらのデータは、試合中に毎秒数十回という頻度で、選手の正確な位置情報や走行速度、パスの成功・失敗、ボール支配率などの情報を記録します。

引用元:https://www.reddit.com/r/sportsanalytics/comments/uh90az/realtime_sports_tracking_data_with_ai/

トラッキングデータに加え、AIはイベントデータ(シュート、タックル、ファウルなどの発生情報)を統合的に解析します。特にサッカーにおいて重要となるのが、ゴール期待値(xG)やパス成功期待値(xA)といった高度な指標の算出です。
AIは、過去の膨大な試合データから、特定のエリアでのボール保持時間、特定の選手のパスコース、およびディフェンスラインの高さが、xGにどう影響するかを学習しています。

例えば、あるJ1クラブでは、AIが相手のディフェンスがコンパクトになった際、サイドチェンジの速度とタイミングがxGを最大化する鍵であると分析。
これにより、監督は「速く逆サイドへ」という抽象的な指示ではなく、「ボールを保持してから2.5秒以内にサイドを変える」という具体的な値を選手に与えられるようになりました。
引用元:https://www.ittc.co.jp/2022/09/04/

守備面では、AIは相手チームのビルドアップに対する最適なプレッシングのトリガーポイントを特定します。
相手のキープレイヤーがどのエリアでボールを持ったとき、どの選手が、どのような角度でプレッシャーをかけるのが最もボール奪取につながるかを数値化します。
これにより、体力消耗の激しいプレッシング戦術の実行において、無駄な動きを減らし、エネルギー効率の最大化を図っています。

コンディショニング管理と怪我の予防

AIは、選手の健康を守り、キャリアを長期化させる上でも不可欠な存在となっています。
これは、単なる疲労のチェックを超えた、科学的なコンディショニング戦略の核です。

選手は練習中だけでなく、日常生活においてもウェアラブルデバイスを通じて、心拍変動、睡眠の質、そして体内の炎症レベルを示すバイオマーカーなどのデータを日々収集しています。
引用元:https://gen-ai-media.guga.or.jp/glossary/consensus-ai/

これらのデータをAIが、練習での走行距離や高強度運動の回数といった外部負荷と統合的に分析します。
特に心拍変動の急激な低下や、睡眠の質の悪化が見られた場合、AIは単に疲労が溜まっているだけでなく、オーバートレーニング状態や免疫力低下による体調不良の兆候であると判断し、個別の練習メニューの調整をコンディショニングコーチに提案します。

これにより、風邪などの感染症や、疲労骨折といった非接触型の怪我を未然に防ぐ取り組みが強化されています。

バイオメカニクス解析による怪我の予防

プロ野球チームでは、高速度カメラで撮影された投球・打撃フォームの映像をAIが解析し、選手の骨格や関節にかかる負荷の分散状況を計測しています。
Blood Flow Restriction Training Produces Striking Results for Elite ...
引用元:https://www.houstonmethodist.org/leading-medicine-blog/articles/2023/nov/blood-flow-restriction-training-produces-striking-results-for-elite-college-baseball-pitchers/

例えば、ある投手の投球フォームを解析した結果、リリース時に肘関節に「通常よりも15%高いねじれ負荷」がかかっているとAIが特定したとします。
これは数か月後の肩や肘の故障に繋がる潜在的なリスクです。

AIはこのデータを基に、バイオメカニクスの専門家と連携し、リスクを低減するための具体的なフォーム修正ポイントや筋力トレーニング部位を提案します。
これにより、選手のパフォーマンスを維持しながら、トミー・ジョン手術などの深刻な故障リスクを最小限に抑えることが可能になっています。

ビジネス革新のためのAI活用事例

AIは、スタジアムの外、すなわちクラブの経営とファンサービスの領域においても、従来の常識を覆す変革をもたらしています。

ダイナミックプライシングによる利益最大化

日本のプロスポーツにおけるAIの最も成功したビジネス事例の一つが、ダイナミックプライシング(変動価格制)です。
プロ野球やJリーグの一部のクラブは、AIアルゴリズムを活用することで、チケットの価格を固定せず、需要と供給に応じてリアルタイムで変動させています。
引用元:https://hochi.news/articles/20210305-OHT1T50059.html

AIがチケット価格を決定する際、以下の複合的な要因を重み付けして分析します。
・需要曲線: 過去の同じ曜日・時間帯でのチケット販売速度と残席数。
・対戦カードの魅力度: 過去の対戦成績、現在のリーグ順位、ライバル関係。
・外部環境要因: 週末の天候予報、競合イベント(大型ライブ、他競技の試合など)の有無。
・購入者の属性: 過去の購入者の属性(新規/リピーター)と、その価格に対する反応。

このAI駆動型の価格戦略により、例えば注目度の低い平日開催の試合でも、AIが価格を下げることで少しでも安ければ行きたい層を取り込み、空席を減らして集客を担保します。
逆に、優勝争いがかかった試合では、需要を予測して価格を上げることで、クラブの収益を最大化しています。

パーソナライズされたファン体験の提供

AIは、全体に向けた画一的なサービスではなく、個々のファンとの関係性を深めるための個別マーケティングを可能にします。
多くのクラブでは、チケット購入履歴、オンラインストアでのグッズ購入履歴、公式アプリの閲覧履歴、スタジアムでの飲食購入記録など、ファンに関するあらゆるデータを顧客データプラットフォームに集約しています。

特にJリーグではJリーグは、リーグ全体でJリーグIDを導入し、チケット購入、ファンクラブ、グッズ購入など、ファンとの接点となるデータを統合しています。
引用元:https://www.jleague.jp/special/jleague_id/

AIはこのデータを解析し、ファンを細かくセグメント化します。
例えば、「観戦頻度は高いが、グッズ購入経験がないファン」「特定の選手へのロイヤリティが高いファン」「遠方に住んでいるが、年に一度は来場するファン」といった具体的な顧客像を生成します。
AIは、生成された顧客像に基づき、最も反応率が高い情報を、最適なタイミングで提供します。

AIチャットの活用

AIチャットボットは、単なるQ&A機能を超え、チケット購入プロセスにおけるFAQ対応や、スタジアム内の特定の座席からの景色を画像で示すなど、顧客体験をストレスなく完結させるための重要な接点となっています。
これにより、ファンサービスの質を落とすことなく、クラブの運営効率を大幅に向上させています。

まとめ

このコラムではスポーツ業界におけるAI活用事例について、競技のパフォーマンス向上と、スポーツビジネスの進化という2つの観点から分析していきました。

スポーツ業界へのAI導入を専門的に行う企業なども登場し、今後ますますAIの有効活用が進んでいくと考えられます。
AIを上手く活用し、スポーツ界がさらに発展していく未来を楽しみにしています。

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