なぜ「スタジアムに行った人はまた来たくなる」のか? ―体験価値・感情設計・共創がつくる「スタジアム空間」

「スタジアム観戦をきっかけにファンになった」「一度行ったらハマった」 こうした声を耳にしたことはありませんか? スポーツの魅力はテレビやネットでも十分に伝わりますが、現地のスタジアムに足を運ぶことで生まれる「特別な体験」には、代替できない価値があります。 実際、多くのプロスポーツチームは「スタジアム初来場者の再来場率」が高いことをデータで把握しており、「まず来てもらうこと」に全力を注いでいます。 では、なぜスタジアムは一度来た人の心をつかみ、リピーターを生むのでしょうか? 本コラムでは、その理由について「体験価値」「感情設計」「共創性」「非日常性」「ブランド接点」の5つの視点から解説していきます。
五感を刺激する「体験」
スポーツを「観る」だけでなく「感じる」
スタジアムに足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのは広大なフィールドだけではありません。耳に届く歓声と音楽、肌で感じる風や振動、鼻をくすぐるグルメの香りなど、まさに五感がフル稼働する空間になっています。
エンタメ要素の多目的化
スタジアム内で販売されるグルメやグッズ、フォトスポットなど、観戦前後の楽しみも体験価値を高める要素です。最近では「映える観戦」を意識した装飾やイベント、インフルエンサーによる現地発信も増えており、スタジアムは「レジャー施設」としての魅力も兼ね備えています。
プロスポーツチームの事例
横浜スタジアムでは、2023年からグルメフェスと観戦を掛け合わせた「ベイグルメ祭り」を開催し、球場での食体験そのものを目的に来場する人が増えています。また、楽天モバイルパーク宮城では観覧車や温泉などを備え、試合以外でも楽しめる「スタジアムパーク型」の体験を提供しています。
記憶に刻まれる「感情」
観戦体験に「感情の山場」を設計
例えば、Bリーグでは選手入場時に照明演出と音楽を組み合わせた「ショー形式」を導入しています。
これは、初来場者でもワクワク感を覚えやすくなる仕掛けになっています。
「偶然」と「必然」の感動
観戦体験における感情は、決して設計されたものだけではありません。
観戦中に起きるラストプレーの逆転劇や、選手の粋なファンサービスなど、偶然性の高い「感情の瞬間」も観戦体験に彩りを加えます。プロスポーツチームの事例
セレッソ大阪では、選手入場時にクラブカラーのピンク色の煙が焚かれ、サポーターがペンライトを振る「光の演出」が名物となっており、SNSでも話題になりました。阪神甲子園球場の「ジェット風船」も、試合中の感情を爆発させる演出として多くのファンに支持されています。
「共創」がファンを巻き込む
「応援する側」から「一緒につくる側」へ
Jリーグの応援文化に代表されるように、チャント(応援歌)や手拍子、横断幕などの「参加型応援」があります。これらは、観客を「見る人」から「つくる人」に変える力を持っています。ファン投票でのイベント企画や、SNSでのリアルタイム応援投稿など、オンラインだからこそできる体験も近年増えています。
オンラインとの融合で進化する参加体験
これらは「デジタル共創」と呼ばれ新たな参加体験として注目されています。
プロスポーツチームの事例
Bリーグの琉球ゴールデンキングスでは、ファンが選ぶ応援曲や応援グッズのデザインコンテストを実施し、スタジアム演出にファンが直接関われる仕組みを導入しています。また、プロ野球の千葉ロッテマリーンズでは、ファン自身がマイクを握ってリード応援する「応援団参加制度」も存在します。
現実からの脱却を生む「非日常性」
現実とは違う「もう1つの世界」
スタジアムという空間は、日常生活とは異なる「もう一つの世界」を演出します。非日常性は、「現実を忘れたい」「気分を変えたい」というニーズを満たします。
スタジアム外も含めた空間演出
これは、より強い没入感を与える設計が行われているためです。
プロスポーツチームの事例
Bリーグの宇都宮ブレックスでは、ハロウィンやクリスマスの時期に合わせて「ドレスコードデー」を実施し、来場者が仮装して観戦することができる特別イベントが人気です。また、Jリーグの川崎フロンターレでは、スタジアム外に縁日やアトラクションを設置し、「お祭り感」を高める工夫がされています。
長期的な関係性を築く「ブランド」
選手が「会いに行ける」存在に
元々、選手との接点はSNSやTVを通じた「間接接触」だけでした。
しかし、近年はスタジアム観戦といえば、リアルな場でチームや選手とつながる「直接の接点」となっています。関係性を深める「限定性」と「希少性」
単なるグッズ販売としてではなく、「スタジアム限定」のグッズや体験も増えています。
また、NFTやデジタル特典などが、ファンとのつながりをより強固なものにする「希少性」の高いグッズも出てきました。
プロスポーツチームの事例
Jリーグのサンフレッチェ広島では、来場者限定で選手の「デジタルトレカ」を配布し、観戦ごとにコレクションを楽しめる仕組みを導入しています。また、北海道日本ハムファイターズのエスコンフィールドでは、試合後に選手がグラウンドを一周し、観客と手を振り合う「お見送りセレモニー」が恒例化し、リピーター獲得に貢献しています。
まとめ
「スポーツを観る」だけでなく、「感じる」「参加する」「共有する」「記憶する」──これがスタジアム観戦の本質です。チームが届けたいのは、単なる試合結果ではなく、“記憶に残る物語”なのです。だからこそ、スタジアムに一度足を運んだ人は、また来たくなります。それは感情が動かされ、体験が物語化され、現実を超えた「つながり」が生まれる場所だからです。
これからスポーツビジネスに携わる方、ファンエンゲージメントを高めたい方にとって、スタジアムの持つ“魔法”の正体を深く理解することは、極めて重要な視点になるでしょう。
あなたの次の一歩は、スタジアムで生まれる“物語”の一部になることかもしれません。