長崎スタジアムシティが開業して1年。開業の効果と今後期待されることとは?

長崎市幸町の旧造船所跡地に、総事業費約1,000億円とも言われる「長崎スタジアムシティ」が開業してから1年が経ちました。 この施設は、プロサッカーチーム「 V・ファーレン長崎」の新ホームスタジアムをはじめ、プロバスケットボールクラブ「長崎ヴェルカ」のホームアリーナ、ホテル、商業施設、オフィス棟など多機能を併せ持った複合開発施設です。 開業から約1年が経過し、地域・スポーツ・経済・まちづくりの観点からさまざまな効果が報告されています。 今回は「開業効果」をご紹介しつつ、今後の課題と展望についても考えていきたいと思います。

長崎スタジアムシティのプロジェクト概要とは

プロジェクトの背景

長崎市中心部のJR長崎駅から徒歩10分圏、旧造船所工場跡地を活用し、民間主導による地域創生事業としてスタートしました。
このエリアは従来、工場跡ということで市街地再活性化の要地である一方、中心市街地の空洞化・にぎわいの減少が課題になっていた地域でもありました。

プロジェクト主体は、ジャパネットホールディングスによる「リージョナルクリエーション長崎」が開発・運営を担い、官民連携・地域活性化を見据えたものです。
開発期間は企画・調整を含め数年に及び、2022年6月に着工、2024年9月には竣工式が実施され、10月にグランドオープンしました。

施設の特徴

長崎スタジアムシティは、「スタジアム+アリーナ+ホテル+商業施設+オフィス棟」を備えた複合施設です。
代表的な施設は以下となります。
  • サッカースタジアム(名称:PEACE STADIUM Connected by SoftBank):収容約20,000人。ピッチと客席最短5mという設計で、観戦の臨場感を追求。
  • アリーナ(名称:HAPPINESS ARENA) :収容6,000席。バスケットボール(長崎ヴェルカ)や各種イベントに対応。
  • ホテル:スタジアムビューの部屋・天然温泉・宿泊パッケージなど「泊まる体験」も提供。
  • 商業施設:飲食・物販・エンタメ店舗が多数出店。休日・試合日だけでなく、日常利用を狙ったショップラインナップ。
  • オフィス棟:コワーキングスペースや企業誘致フロアも。
また、設計上のポイントとして、ICT(情報通信技術)を活用し、来場者体験や施設運営の効率化を図る“スマートスタジアムシティ”としての位置付けがあります。

運営体制

本プロジェクトの狙いは、単なるスポーツ施設整備にとどまらず、地域創生・交流人口拡大・まちづくり・観光振興といった多面的な効果を追求することにあります。

運営スキームは民設民営方式。
土地取得から開発・運営まで民間主導で行われており、リスク・リターンを含む投資マインドの下、長期視点での価値創造が想定されています。

また、長崎市としてもこの施設を「中心市街地再活性化」「観光・交流拠点」として位置付けており、都市政策・交通整備・観光資源との連携が進められています。

長崎スタジアムシティ開業1年での実績

想定されていた効果

施設開業時に公表された想定数値を整理します。
  • 建設時の経済波及効果:約1,436億円。
  • 初年度開業後想定の経済波及効果:約963億円。
  • 想定年間来場者数:約850万人。
  • 雇用創出想定:約13,000人。
これらの数字は、施設単体だけでなく、商業・宿泊・イベント・オフィス誘致を含めた複合開発全体として示されたもので、地域経済・雇用にも大きなインパクトを持つとされていました。

実績値

開業から1年が経った現在、一定の集客実績や運営指標が報じられています。
例えば、開業直後2ヶ月で来場者95万人を超えたという報道もあります。

また、施設公式アプリ登録者数は、開業前の2024年8月時点で既に35万人を超えていたとされ、ICTプラットフォームを活用した動員・顧客管理に成功の芽が見えます。

こうした実績から、想定値に近い、もしくはそれに迫るパフォーマンスが短期的に確認できる状況です。

スポーツチームにおける効果

スタジアム移転・新設によるクラブ効果として、V・ファーレン長崎は新スタジアム化に伴い、観客数・ファン動員・クラブブランド向上に繋がったという報道があります。

また、長崎ヴェルカも新アリーナをホームとし、プロクラブとしての基盤強化・地域振興モデルの一角を担っています。

継続して効果検証がされている事項

ICTを活用した施設運営・デジタルチケット・キャッシュレス決済・セルフオーダーといった導入が、運営効率化・コスト低減・顧客満足度向上に寄与しているとされます。

加えて、ホテル・商業施設・オフィスフロアの稼働・テナント誘致動向も順調であり、施設全体の“稼ぐ街”としての姿が徐々に形になりつつあるという分析もあります。

地域・まちづくりへの波及効果

市街地活性化

旧工場跡地という立地を活用し、中心市街地の再活性化に寄与しています。
駅徒歩圏内・路面電車やバスのアクセスも整備され、「まちの回遊性」に新たな動線が加わっています。

地域住民・観光客・ビジネス利用者が集うハブとして機能することで、これまで減少していた市街地のにぎわいを呼び戻す効果が期待されています。
さらに、施設が「日常の場」としても使えるよう設計されており、試合やイベントの無い日でも「歩くだけ」「買い物だけ」「カフェ利用だけ」という使い方が可能な点が、まちづくりの視点で高く評価されています。

観光人口の増加

長崎市は観光都市としてのブランドも持っていますが、この施設の開業によって「スポーツ+宿泊+商業+観光」の複合体験が可能になりました。
例えば、アクセスの良さ、宿泊パッケージ、イベント来訪などが観光誘致の新たな切り口となっています。

施設公式でも「国内外からの注目」を謳っており、地域ブランドの強化・交流人口の増加による観光消費増につながる見通しが立っています。

雇用・産業振興

想定通り約13,000人規模の雇用が想定されており、建設段階だけでなく、運営・商業・宿泊・イベント関連の雇用創出も進んでいます。

また、ICT・スマートスタジアム運営・スポーツビジネス・イベント産業といった「次世代産業」を誘致・育成する拠点としても位置付けられており、地域産業構造の転換を促す可能性があります。

人と街をつなぐ空間としての効果

この施設は、まちとスポーツ、そして人(市民・観光客・クラブファン)をつなぐ場として設計されており、地域の価値・誇り・生活品質の向上につながる「ソーシャルインフラ」としても機能しています。

例えば、地域住民がスタジアム周辺を散策したり、非試合日でも施設を利用できる設計になっていることが、地域生活のウェルネスや交流を支える要素として注目されています。

長崎スタジアムシティのエンタメ分野への効果

観戦体験

ピッチから客席までの距離が最短5 mという設計、「全席ドリンクホルダー付き」「全席屋根付き」といった観戦快適性の追求がなされており、観戦体験そのものが刷新されています。

さらに、商業施設・ホテルが併設されていることで、観戦前後の時間も含めた「体験価値」が向上しており、スタジアム単体ではなく「宿泊+観戦+ショッピング+食事」というパッケージが可能となっています。
このような体験設計は、スポーツ観戦を「特別な日」から「よりカジュアルに楽しむ日常」へと変えていく可能性を持っています。

スポーツチームのブランド化

V・ファーレン長崎等プロクラブにとって、新スタジアム・複合施設という環境は、ファン動員、ブランド向上、スポンサー誘致など成長の後押しとなっています。
実際、観客数増加・クラブ運営体制強化の期待が報じられています。

また、長崎ヴェルカも本施設内アリーナをホームとし、バスケットボールの都市型拠点化・スポーツ振興モデルの一角を担っています。

こうした「場」の整備が、スポーツチームと地域がともに成長する好循環を生み出す可能性があります。

イベントの多様化と稼働率の向上

この施設はスポーツだけでなく、コンサート、展示会、MICE(会議・展示・イベント)、宿泊パッケージ、さらにはジップライン・クラフトビール醸造といったユニークなアクティビティも備えています。

このように「試合がない日も使える施設」という設計によって、稼働率を上げるという戦略が取られています。
これは従来のスタジアム建設モデルではなかなか実現できなかった「稼ぐ施設」の要件です。
例えば、施設公式でも「運営効率化・消費促進をICTで図る」と明言しています。

現状の課題と今後の展望

課題とリスク

1. 長期持続性・収益モデルの確立
施設は開業直後の話題性・集客ポテンシャルが高かったものの、「10年・20年先も成長し続ける仕組みをどう作るか」が大きな課題とされています。
例えば、単一スタジアムでは年間稼働日数が限られるため、収益構造の多角化・日常利用の定着が鍵となります。

2. 日常利用の定着・平日/非試合日の活用
「試合がある日」は人が集まりやすい反面、「試合がない日」や「平日」にどれだけ人を呼べるか、日常使いの場としてどれだけ定着するかが問われています。
体験レポートでは、平日・非試合日の集客努力が伺われますが、長期的な定着には一定の戦略と持続的なイベント・誘客企画が必要です。

3. 交通・アクセス・周辺インフラとの調整
中心市街地という好立地を活かす一方で、交通・駐車場・公共交通機関との連携、周辺商業・住環境・物流との共存・混雑対策、住民との調整など、都市インフラ的視点からの課題も存在します。
アクセス案内・路面電車停留所の変更も実施されています。

4. 地域との共生・既存商業との関係性
新規大型施設の導入にあたり、既存商店街・商業施設・住民・まちの「顔」とのバランスを取ることが不可欠です。
中心市街地の再活性化に成功しても、既存地域の衰退を招くようでは本末転倒です。
こうした「周辺商業との関係調整」や「地域住民との対話」も長期運営を考える上での重要点となります。

今後の展望

1. 宿泊・観光・MICE誘致の強化
ホテル併設という強みを活かし、観戦目的だけでなく宿泊・観光・MICE(会議・展示・イベント)誘致を強化することで、施設稼働率・滞在時間・地域消費額をさらに押し上げる可能性があります。
地域観光資源と連携しながら、「スポーツ+観光+宿泊」の滞在型誘客を深化させることが鍵です。

2. ICT・スマートスタジアム・スマートシティ化の強化
本施設では既にICTを活用した運営・来場者管理・データ分析が導入されており、今後さらに「スマートスタジアムシティ」としての深化が期待されています。
例えば、ビッグデータの活用、来場者動線分析、セルフオーダー/決済システム、自動化運営などです。
これを起点に、地域エコシステム(スマート交通、地域IoT、住民生活連携など)との連動も可能となり、まちそのものの「知能化」が進む可能性があります。

3. 地域スポーツ振興・人材育成・産業化
新スタジアム・アリーナを核に、スポーツ振興・人材育成・スポーツビジネス産業化を地域に根付かせることも重要です。
例えば、地元の子ども向けスポーツプログラム、スポーツ観戦体験の拡充、クラブ運営・マーケティング人材育成など、「場」を活かして人や産業を”育てる”フェーズに移っていくことが望まれます。
また、商業・宿泊・オフィス・イベント産業を含めた「スポーツまちづくりモデル」として、他地域への波及・横展開も視野に入ります。

4. 連携・エコシステムこうちくの強化
施設単体の成功ではなく、「スタジアムシティ+まち+人+観光+交通+産業」という多面的なエコシステムを構築することが、長期的な価値維持・向上において重要です。
特に、周辺商業・宿泊・交通インフラ・地域文化資源・観光資源とのシナジーを高めることで、施設とまちの相乗効果が生まれます。
また、定期的なリニューアル・新コンテンツ投入・地域イベントとの融合といった「動き続ける街」としての仕組みづくりが、長期的な活力を支えます。

長崎スタジアムシティの社会的意義

新しいモデルのまちづくり

長崎スタジアムシティは、スポーツ施設の枠を超え、「まちづくり」「観光」「宿泊」「商業」「オフィス」「ICT」という多分野を統合した「複合開発モデル」として注目を集めています。

この統合モデルは、単一機能施設が抱えがちな「稼働日数の少なさ」「非稼働日の空白」といった課題を克服し、まち全体を活性化する起点になり得るという点で、社会的・産業的意義が大きいです。

地域ブランドの強化

人口減少・地方都市の衰退が叫ばれる中、中心市街地に大型複合施設を整備し、交流人口・観光滞在型誘客・スポーツ観戦という「身体的アクティビティ+観光消費」という組み合わせを実現している点は、地方創生モデルとしての可能性を示しています。
長崎という地域性も活かされ、まちのブランド向上・地域の誇り喚起にも寄与しています。

地域への「スポーツビジネス」の展開

従来、スポーツ施設はクラブ運営・観戦機会提供が主となっていましたが、スタジアムシティでは「観戦+宿泊+商業+ビジネス利用」という価値パッケージが提示されています。
つまり、スポーツビジネスを地域に根付かせ、経済・産業・雇用の裾野を広げるという意味で、地域スポーツの「エコシステム化」にもつながっています。

スマート化の先端事例

ICT・デジタル決済・来場者データ分析・運営効率化といった「スマートスタジアム」要素が導入されており、施設運営だけでなく、来場者体験・地域サービス・ビジネス展開においても未来志向が強く打ち出されています。

このような先進的要素を持ち合わせた施設は、国内外のスポーツ施設整備・都市開発において「参照モデル」となる可能性があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

「長崎スタジアムシティ」開業1年という節目において、その効果は既に数値・体験・地域価値という多面的に確認されつつあります。
スポーツ施設という枠を超え、まちづくり・観光誘客・産業振興・スマート都市というキーワードを体現するプロジェクトとして、大きな期待を背負っています。

ただし、短期的な「開業効果」だけで終わらせず、日常化・定着化・循環化という次のフェーズに移行することが、真の意味で「成功したプロジェクト」となるための鍵です。
今後も長崎市・施設運営者・地域住民・スポーツクラブ・企業という多様なステークホルダーが協調・連携し、スタジアムシティが地域の「新たな核」として定着し、発展し続けることを期待します。

ぜひ皆さんも一度、長崎スタジアムシティを体験してみてはいかがでしょうか。